あの奇跡のような再会から、2週間後の日曜日。
都会の待ち合わせスポットは、5Gの超高速電波と、休日を楽しむ人々の喧騒で満ち溢れていた。
スマートフォンの画面には、友人からのメッセージやSNSの通知が次々とポップアップしている。いつもの、完全に接続された日常。
壁にもたれかかりながら、晴斗はどこか落ち着かない気持ちで液晶画面をスクロールしていた。
(……いや,本当に夢じゃなかったんだよな?)
あのアンテナ圏外の山奥で、15年ぶりに陽葵と再会したこと。錆びついた空き缶から、同じ答えのログを掘り起こしたこと。
ローカル線のホームで連絡先を交換し、今日、こうして都会の真ん中で待ち合わせをしていること。
すべてが映画のようで、液晶のブルーライトを見つめていると、急に現実感が薄れていく。
その時だった。
ガサガサとした雑踏のノイズを切り裂くように、周囲の視線が一箇所に集まるのが分かった。
「……え,あの人,モデル?」
「めっちゃスタイル良くない……?」
すれ違う若者たちが、思わず振り返る。
人混みの向こうから、真っ直ぐにこちらへ歩いてくる一人の女性がいた。
晴斗は思わず息を止めた。
車内で見せた、あの冷徹なほどに完璧な「バリキャリのスーツ姿」ではない。
頭には、目深に被った黒のキャップ帽子。そこから、艶やかな長い黒髪がさらりと肩に流れている。トップスは、鎖骨が綺麗に覗くシンプルな丸首の白のノースリーブ。その上から、少しルーズで涼しげな、片方の肩が大胆に落ちたデザインのオーバーサイズパーカーを羽織っていた。
ストリート感のあるボーイッシュなカッコよさと、大人の女性のヘルシーな色気。それらが絶妙なバランスで同居する、まるでファッション誌から飛び出してきたかのような洗練されたスタイリング。
「……うわ」
小5の時の「野生児」の面影も、IT企業で戦う「女幹部」のような隙のなさもない。
そこにいたのは、都会のトレンドの最先端を軽やかに乗りこなす、圧倒的なオーラを放つ美女だった。
あまりのギャップの連続に、晴斗の脳内メモリは完全に処理落ちを起こし、ただ棒立ちになることしかできない。
タッ、タッ、と今度はスニーカーの軽快な足音が近づいてくる。
晴斗の目の前でピタリと足を止めると、彼女は細い指先で黒いキャップのツバをくいっと持ち上げた。
隙間から覗いた、澄み切ったアクアの瞳。
彼女は、呆然と固まる晴斗の顔をのぞき込むと――
「にひひ,おまたせ,晴斗。……何,そんなにマヌケな顔して」
そう言って、あの頃と全く同じ、前歯を少し覗かせた「ひまわり」の笑顔を咲かせた。
その瞬間、都会の喧騒も、スマホの通知音も、すべてが再び遠のいていく。
どんなに見た目が大人に、カッコよく変わろうとも、彼女のコアにある「ログ」はあの夏のままだ。
「いや……。お前,それ反則だろ」
「何がー? w ほら,早く行こ! 行きたいお店,いっぱい調べてきたんだから!」
陽葵は楽しそうに笑うと、パーカーの広めの袖から覗く白い手首を伸ばし、晴斗の手をガシッと掴んだ。
15年前、生垣の向こうから引っ張られた時と同じ、ほんのり熱くて柔らかい手のひらの感触。
どんなに世界が高速化し、他人のノイズに溢れようとも、彼女が笑えばそこは一瞬で、あの静かな夏の裏山へと姿を変える。
二人の、15年越しの『オフラインサマー』は。
バリバリに電波の飛び交う都会の真ん中で、もう一度新しく歩み始めた。